先進地行政視察

管外調査視察報告

調査視察日:令和4年11月15日~16日

本市の政策の立案に参考とすべき先進事例を学ぶため、各分野で先進的取組をされている自治体を視察し、政策についての聞取りと意見交換を行いました。

1.「多世代・多機能型地域包括ケア事業について」
富山市まちなか総合ケアセンター

会派意見まとめ

 「富山市まちなか総合ケアセンター」は、乳幼児から高齢者までのあらゆる世代に対し、福祉サービス等を総合的に提供することで、全ての地域住民が安心して健康に生活できるまちづくりを推進するために設置された施設です(富山市まちなか総合ケアセンター条例第1条)。

 同センターが立地する一帯は総曲輪レガートスクエアと呼ばれ、廃校となった小学校の跡地活用について、PPP(公民連携)事業により、子育て・教育・医療・福祉等関連機能を集積することで質の高い暮らしの提供を目指し、民間活力を活かして整備された地域です。同センターはその中心機能を担い、地域包括ケア拠点として、①子育て支援、②在宅医療の推進、③地域コミュニティの醸成を使命として、富山市の直営で運営されています。子育てサポートのサービス、新たな医療のかたち、社会に活気をもたらす市民交流の促進など、誰でも暮らしやすいまちであるための新しいライフスタイルが提案されていると感銘を受けました。

 人口規模に違いはあるものの、本市のまちづくりにおいて大変参考になる先進的な公共政策であると考えます。

各会員所感

(森下 恒夫)
 小学校の統合に伴って廃校となった総曲輪小学校跡地を総曲輪レガートスクエアとして、PPP(官民連携)により整備(11億1千万円)された一つとして「まちなか総合ケアセンター」がある。3階建の建物の中に ①産後ケア応接室 ②病児保育室 ③まちなか診療所(在宅医療専門) ④医療介護連携室 ⑤まちなかサロン ⑥こども発達支援室が整備されそれぞれきめの細かいサービスが提供されている。

 このセンターは、富山駅を起点にした路面電車(ライトレール)の停留所が近くにあり、極めて交通至便の場所にあり、又、車の場合は立体駐車場も整備されている。富山市は、早くよりコンパクトシティ化を進めているが、これを更に深化させ、誰もが生きがいと幸福感を感じながら明るい未来を展望できる「幸日本一とやま」の実現に向け各種施策を進めている。まちなか総合ケアセンターはまさに総合ケアの名にふさわしい施設と言える。

 今回の視察で、言葉だけの政策ではなく、市民が着実に幸せに近づく政策の実行が重要であることを実感した。我が市にも富山市のような総合ケアセンターが必要である。そしてそれは、全天候運動場より優先することは言うまでも無いことである。


(嵯峨山 博)
 旧総曲輪小学校跡地にPPP(官民連携)を活用して富山市の中心に整備された「まちなか総合ケアセンター」は、子育て支援、在宅医療、地域コミュニティの醸成などを推進するための事業を展開している。乳幼児から高齢者、障がい者を含む、全ての地域住民が安心して健やかに生活できる健康まちづくりの推進を目的とし、産後ケア、病児保育、まちなか診療(在宅医療専門)、医療介護連携、まちなかサロン、こども発達支援が整備されてる。この事業は市長の政治判断により展開された事業であり、これを実現するために、関係部局が連携し実現した施設でもある。

 朝来市では、旧あさご医療センター跡地、梁瀬医療センター跡地の利用を考えていかなければならない。これまで、会派内で朝来市における妊娠・出産・育児の不安の解消について、地域包括ケアシステムの複合拠点づくりなどの協議を行い、政策提言を行っているが、改めて、まちづくりにはこのような拠点施設が必要であることを認識した。


(藤原 正伸)
 出産、子育て支援や高齢者の在宅医療など健康まちづくりの拠点となる公共施設「富山市まちなか総合ケアセンター」は、富山市中心市街地の旧総曲輪小学校跡地にPPPを活用して整備された、「医療・福祉・健康」をテーマとした交流拠点「総曲輪レガートスクエア」の中にある。富山市の「中心市街地活性化基本計画」には、レガートスクエアの整備の目的として、「社会経済文化活動が活発に行われるとともに、日常生活に必要な機能や子育て・教育・医療・福祉等に関する機能を集積したエリアとして整備」するということが示されている。スポーツクラブや医療福祉と調理製菓の専門学校、カフェや立体駐車場などの民間施設が併設され、地域コミュニティの推進機能も果たしている。

 人口規模こそ本市とは比較にならないが、地域包括ケアの中心拠点という位置づけの複合施設を、民間の力を活用して整備した取組方法は、大いに参考にすべきと考える。中心市街地の相当規模の好立地の活用については、様々な考え方があると思われるが、その中で、子育て世代や高齢者向けの福祉に関する施設の設置がされたことは、自治体として少子高齢化の課題解決に取組む強い意気込みが感じられる。このような計画を実現させるためには、関係部局の連携が重要となる。それがしっかり行われたからこそ出来た施設であり、それにはトップリーダーとしての市長の、課題に対する強い危機感が伺える。その危機感を具現化し、 具体的対策を講じられたことを、大いに見習うべきである。

 具体的な機能としては産後ケア応援室・病児保育室・まちなか診療所があり、特に産後ケア応援室については5室の宿泊室を備え、産後4ヶ月までの母子を対象に、宿泊にも対応している。また、看護師や保育士が病児・病後児の一時保育をする病児保育室があるほか、在宅医療の普及・啓発を目的とした「まちなか診療所」もある。シニア層を含む幅広い世代をサポートする施設となっている。都市型地域包括ケアシステムの拠点施設として、子育て支援や、発達支援、在宅医療などの既存の福祉施策の隙間を埋める施策の展開は、本市にとっても注目に値する。

 特徴的な取り組みの一つ、「お迎え型保育」は、体調を崩した幼児を親の代わりに保育園等へ迎えに行き預かり、医療機関へ連れて行く、また、そのまま一時的に保育に入るという事業で、医療的ケアが保障されており、親も安心して働けるのではと感心した。また、産後ケア応援室の取り組みは、出産後慣れない育児に苦労する母親のこころと身体の回復を支援し、こどもとの新しい生活を安心して過ごすことができるようサポートするもので、心身共に安心して休める居場所を用意し、疲れをとってまとまった休息を保障する仕組みは、本市において効果的施策を展開する上で、大いに学ぶべきであると考えた。さらに、まちなか診療所は、24 時間 365 日対応できる訪問診療所として、住み慣れた我が家で老いを迎えたい市民の願いによりそった事業であると思われる。

 これらのことにより、質の高い魅力的な市民生活づくりが図られており、切れ目のない子育て支援や福祉事業の充実等、一元的・包括的なサービスを提供する行政運営の形態を勉強することができた。本市においても、地域包括ケアの推進が、今後のまちづくり、ひいては本市の存続に不可欠の要請となっている。今後ますます重要になる多世代横断型のサービスを提供する富山市の取組は、施策の内容はもとより施策推進の姿勢に関しても、非常に有益な先進事例であった。


(松井 道信)
 富山市と朝来市では都市規模が違うとはいえ、羨ましい限りの設備であった。そもそもの設立動機が、小学校の統廃合による跡地再利用とのことであったが、一連の総曲輪レガートスクエアは、交通至便で立地条件も素晴らしく、立体駐車場完備でスポーツジムに看護学校・リハビリや調理の専門学校までをも備えていた。連日の全国各地区からの視察受け入れ対応で本来の仕事もままならないと、行政担当者は悲鳴を上げられるほどの盛況ぶりである。

 この施設を建てるにあたって当局は医師を20名確保する必要があったと述べておられたが、それをいとも容易く可能にした当局のポテンシャルは素晴らしい。わが市規模では同一のものは出来かねるものの、梁瀬医療センター跡地問題を抱える現在、当市にあっても少しでも近づけられるものが出来たらと思わずにはいられなかった。

関係資料

提供:富山市まちなか総合ケアセンター

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2.「学力向上の取組について」
滑川市教育委員会・教育センター

会派意見まとめ

 近年、若者のものづくり離れが進んでおり、地域経済を支える中小企業の人材不足が社会的問題となっています。これに対し、文部科学省は、我が国の競争力を支えるものづくりの次代を担う人材を育成するためには、ものづくりに関する教育を充実させることが重要であるとし、「理数教育の充実」や「体験活動の充実」等を主な改善項目とした現行「新学習指導要領」を公示し、小・中・高等学校の各教科におけるものづくり教育の充実を図っています。

 こうした状況の中、滑川市は、ものづくりのまち滑川の将来を支える人材の育成を目的に、体験的活動、問題解決的学習を重視した、科学、理数、ものづくり教育を、「科学の時間」を通じて推進しています。滑川市教育委員会と教育センターは、市内小中学校の教育効果を高めるための様々な研究調査、教育活動を行っていますが、「科学の時間」は、児童生徒の成長を市の発展に繋ぐ独自の教育課程の取組として、大変効果的に機能していることが理解でき、本市の学校教育の充実を考える上で、大変参考になりました。

各会員所感

(森下 恒夫)
 滑川市の学校教育は、全国学力テスト、国際学力調査(PISA)において高いレベルの成績を維持しており、全国で注目されている。

[特長]

  1. 7校を2つの小学校群に分け2校の中学校との間でそれぞれ小中一貫教育を行なっている
  2. 教育大綱の三大目標
    ①健全な心を支えるたくましいからだ
    ②しぜんと芸術に親しむ豊かな心
    ③人間の生き方を考える優れた知性
  3. 教育の基本方針
    ①ふるさと滑川を支える人づくり
    ②こころと体の健やかで元気な社会づくり
    ③結婚、妊娠、出産、子育て教育の切れ目のない支援
    ④図書、情報等を通じた人がいきいきと交流するまちづくり⑤防災と危機管理による安全な教育、社会、環境
  4. ものづくりのまち滑川の基礎となる人材の育成
    科学、理数、ものづくり教育の推進・・・「科学の時間」をカリキュラム化

 以上の項目をみれば、どんな教育が実施されているかおおよそ想像できるが、なんと言っても小中一貫して「科学の時間」と呼んでいる教科を設けていることは、注目に値する。この教科を通じて、問題解決的な学習能力、探究的な学習能力が育まれることを目指している。
 又、教師の働き方改革についても進んでおり、部活を含め、外部人材の活用が図られ教師の負担軽減に繋がっている。

(嵯峨山 博)
 滑川市の教育基本方針の一つに「ふるさと滑川を支える人づくり」がある。その取組みは、ものづくりのまち滑川の基礎となる人材育成として科学・理数・ものづくりの推進として科学の時間を小学1年から中学3年と小中一貫教育が行われている。

 科学の時間は、地域の自然や資源を活用し、地域の人、企業と連携して実施されている。ふるさと愛の醸成を目指す本市の教育の方針とは大きな違いがないが、本市においても小中一貫教育を取入れるなど取組み内容を見直す必要があると考える。

 また、教職員の働き方改革については、業務の見直し、部活動への外部指導者の活用や部活動地域移行へ向けて試験的に運用されている。国、県の補助メニューだけでなく、富山県独自の事業もあり、進んだ取組みができている。
 今後、本市においても教職員の働き方改革に取組むためには多くの課題はあるが、生徒たちが満足できる活動ができる環境を整えるために、現場、保護者、生徒、地域の方の声を聞き、理解していただく努力をしなければならないことを説明いただき大変参考になった。

(藤原 正伸)
 読み解く力の育成と効果的なICT活用という2つの方向性で学力向上に取組んでいる滑川市であるが、その独自の取組として位置付けられる施策に、「科学の時間」がある。
 滑川市総合計画では、学力について、「生きて働く知識及び技能に加え、学ぶ意欲や、自ら課題を見付け、学び、主体的に判断・行動し、問題を解決する生きる力」と表現されている。身についた知識や技能を実生活で生きて働く力とする思考力・判断力・表現力を指すものと理解する。そのような力を高めるという観点から、体験的な活動や問題解決的な学習を重視した「科学・理数・ものづくり教育の推進」は、児童・生徒に求められる学力をつけることに大変有用であるに違いない。

 滑川市は人口約3万3千人。農漁業に加え製造業が発展し、市民一人あたりの製造品出荷額が県内1位というものづくりのまちである。そのものづくりのまち滑川の将来を支える人材の育成を目的に、体験的活動、問題解決的学習を重視した、科学、理数、ものづくり教育を、「科学の時間」を通して推進している。法改正により、設置者の判断で小中一貫した教育を特別な教育課程を設けて実施することが可能となり、「科学の時間」はこの制度を活用して実施されている特別な教育課程である。
 実験や実習、体験活動は、従来の理科や図画工作、技術家庭などでも学習内容になっているが、「科学の時間」は、児童・生徒の体験的な活動をより重視し、主体的対話的な深い学びを展開することで生まれる新しい学びや発見を、それまでの知識と繫ぎながら生活に活かす力とするものとされている。専門家による出前授業を効果的に利用して学習内容を深めている部分もあるが、地域の自然、資源を活用し、地域の人からの学び、支援をうけて実施されている。
 このように、地域を題材に学習することや地域の人々と接することは、自身の生き方・考え方を形成する上で、非常に重要であり、ふるさとを愛する心を育て、将来直接、間接に滑川を支える人材を育成することに結びつくものと理解できる。

 「科学の時間」は各学校の状況に応じた「特色ある取組」ともなるようにされており、具体的内容は各学校の裁量に委ねられるところもある。しかし、小中一貫のカリキュラムであること、また学校毎に活動の経験や身につける力に格差が生じないようにする必要から、市教育委員会は、指導計画を策定するほか、指導する教員を支援するための理数教育に関する研修会を開催している。さらには市内に初めて勤務する教員を対象に、市内の文化財、史跡、施設の現地研修などを実施しており、「科学の時間」を教育課程として重視、評価していることが伺え、感銘を受けた。
 本市においても、地域を支える後継者を育てるために、教育環境に一貫性を持たせ、地域全体で支援していくカリキュラムを検討・実施していくことが必要であると感じた。

 なお、「特色ある学校づくり事業」について、昨年度までの各学校への一律補助金交付から、必要度の高い教育活動支援へと見直しを行ったこと、また「教員の働き方改革」について、教員の意識改革と併せて保護者、地域の理解を得ることが重要であり、丁寧に取組んでいることの説明を受けた。いずれも本市の学校教育の充実を考える上で、大変参考になった。

 
(松井 道信)
 滑川市は朝来市に比して人口は33,000人と少し多い程度であるが、面積は7分の1程度であり、北陸の小都市にあって人口密度は高い。
 この度の視察の趣旨は特色ある学校づくり事業についてであったが、予想以上に既に教員の働き方改革までを実施しており、教職員の実労時間軽減や中学校の部活指導における先進的な取り組みにも驚嘆した。わが市ではまだスタート地点に立ったばかりでこれからという時期にも関らず、滑川では既に実行段階であった。

 学力向上の取り組みについても同様で、未来の滑川市を支えるための人材育成に主眼を置いた取り組みで、科学・理数・モノづくり教育に力を入れておられる点は、市としての教育に対するビジョンが明確で、既に6年前から始めているという。副読本や出前授業を含め、市内の小中学校における一貫教育を実施している点も大変参考になった。
 私は訪問するまでは全国統一模試ありきのことを想像していたが、見事に裏切られた形で、地域の将来をにらんでの教育は当市においても見習うべきものであると感じた。

関係資料

提供:滑川市教育委員会・教育センター

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