管外調査視察報告
調査視察日:令和4年7月13日~15日
本市の政策に関わる国の制度について、疑問点など詳細を確認するため、内閣府及び厚生労働省の担当部局に対し、聞取りと意見交換を行いました。
また、本市の政策の立案に参考とすべき先進事例を学ぶため、各分野で先進的取組をされている自治体を視察し、政策についての聞取りと意見交換を行いました。
Ⅰ.国の制度調査
令和4年7月13日 衆議院第2議員会館
1.デジタル田園都市国家構想基本方針について
内閣官房
デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
会派意見まとめ
2022年6月7日に閣議決定された「デジタル田園都市国家構想基本方針」では、デジタルインフラを急速に整備し、官民双方で地方におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を積極的に推進するとし、「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」「デジタル田園都市国家構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備」「デジタル人材の育成・確保」「誰一人取り残されないための取組」の四つのテーマに基づいて取り組みを進めるとしています。デジタル技術を地方の社会課題解決の鍵とし、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指すことを謳っています。
このように社会全体としてデジタル化への変革が求められる中、本市においても「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定し、デジタル実装による地域デジタル社会の構築に向けた取り組みを進める必要があります。但し、「DX」という言葉に惑わされ、いたずらに革新的な変化を追い求めるのではなく、本市が抱える課題に見合ったDX推進のあり方を導き出し、デジタルへの置き換えにより質の高い行政サービスの提供を実現する、いわばよりカスタマイズした「DX」推進の姿勢が重要であると考えます。住民の福祉の向上に繋がるデジタル活用でなければ何の意味もありません。
各会員所感
(森下 恒夫)
構想の基本的な考え方のなかで、構想の背景として「デジタルは地方の社会課題(人口減少、過疎化、産業空洞化等)を解決するための鍵であり、新しい付加価値を生み出す源泉である。この為デジタルインフラを急速に整備し、官民双方で地方におけるデジタルトランスフォーメーションを積極的に推進する」としている。さらに、構想実現に向けた取組方針として社会課題解決の方法として次の5つをあげている。①地方に仕事をつくる ②人の流れをつくる ③結婚・出産・子育ての希望をかなえる ④魅力的な地域をつくる ⑤地域の特色を活かした分野横断的な支援
すなわち、国はデジタル化で地域課題を解決しなさいと言っている訳であるから朝来市の地域課題の何に的を絞るかが重要となる。養父市、新温泉町は既に交付金を申請しているのは、これまで課題について真剣に考えて来たと言えるのではないだろうか。
問題は課題をいかに的確に捉えてデジタル化を進めるかであると思う。我が市では今年の春からデジタル戦略課を新設して進めようとしているが、スタートを間違えると無駄なことになると危惧する。早い段階で目的、課題を議会とので間で共有しておくことが重要と思う。
(嵯峨山 博)
地方創生で取り組んできたまち・ひと・しごととデジタル田園都市国家構想の関わりがどのようになるのか。疑問であったが、これまで取り組んできた地方創生に対してデジタルを活用する、一つのツールであるとのことであった。
デジタルを導入することにより、市民の利便性、職員の業務改善がどのようになるか、チェックを行なう必要があるとあらためて感じた。
(藤原 正伸)
ポイントは従来の地方創生との違いがどこにあるかである。
若宮健嗣デジタル田園都市国家構想担当相によれば、地方にある3つの不(不便・不安・不利)を解消することが一番の肝とのことである。デジタル田園都市国家構想は、デジタル化によって、利便性や仕事・教育の機会等の面で地方が抱える課題を解決し、地方と都市の差を縮めようとする試みということになる。
実際は既に、IT技術の進歩により、これまでの地方創生・地方活性化の取組の様々な面で地方の課題解決にデジタルが活用されるようになって来ていた。したがって、これまでの地方創生の延長線上で、それらの地方活性化の取組をデジタルにより高度・効率的に推進しようするものだと理解しておけばよいと考える。むしろそう考えておかないと、小手先の細工に走り、本質を見誤るおそれを感じる。デジタルはあくまでツール。うまく活用しながらこれまでの地方創生の取組を推進する姿勢が基本である。
今後、まち・ひと・しごと創生総合戦略の改定し、デジタル田園都市国家構想総合戦略を策定するとのことで、これに合わせ、地方版の総合戦略も改定を求められることになりそうである。しかし、これまでの考察から、デジタルによらない従来の地方創生の取組も含めて、先ずは、構想実現に向けた地域ビジョンを描いておくことが最も重要だと思われる。
(松井 道信)
「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指して~が基本的な考え方。人口減少・少子高齢化、過疎化(東京圏への一極集中)、地域産業の空洞化といった国が抱える社会課題を克服する手段として、デジタルの力を活用して地方に仕事を作り、転職なき移住の推進によって人の流れをつくり、結婚・出産・子育ての希望を叶える。また魅力的な地域づくり、地域の特色を活かした分野横断的な支援を実施する。そのために。デジタル田園都市国家構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤を整備するとともに、デジタル人材の育成・確保をはかり、2026年度末までに230万人のデジタル推進人材を育成する。まただれ一人取り残さないための取り組みとして、誰もがデジタルの恩恵を享受できるデジタル社会実現に向けて、デジタル推進委員の取り組みを図るとともに、今後更なる拡大を図る。
関係資料
提供:内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
2.デジタル田園都市国家構想推進交付金について
内閣府地方創生推進室
会派意見まとめ
デジタル田園都市国家構想推進交付金は、「デジタル田園都市国家構想」を推進するため、デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現に向けた地方公共団体の取組を国の交付金により支援するものです。
本市においても、デジタル田園都市国家構想に掲げられている「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を実現するため、デジタル田園都市国家構想推進交付金を有効に活用し、デジタル技術による課題解決に積極的に取組むべきと考えます。
なお、本研修後の9月末現在、デジタル田園都市国家構想推進交付金は、地方創生推進交付金、地方創生拠点整備交付金と併せて、新たに「デジタル田園都市国家構想交付金」として一本化され、2023年度予算の概算要求に1200億円が計上されています。
各会員所感
(嵯峨山 博)
デジタル技術の活用により、地域の個性を活かしながら、地方を活性化し、持続可能な経済社会を目指す「デジタル田園都市国家構想」を推進するため、地方からデジタルの実装を進めていくことが喫緊の課題である。このため、デジタルを活用した、意欲ある地域による自主的な取組を応援するため、デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現に向けて、国が交付金により 支援を行うとしている。本市のデジタル戦略課がどのような計画を考えているのか確認する必要があると考える。
(藤原 正伸)
デジタルを活用した、意欲ある地域による自主的な取組を応援するため、デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現に向けて、国が支援する交付金とされ、昨年度の補正予算で成立したものである。これまで531団体・843件・379億円(国費ベース200億円)を採択したとのことだが、本市の事業申請はなかったようである。
事業立ち上げ時に支援を受けられることは大変有利であり、積極的に活用すればよいのだが、今年度の追加予定はなく、次年度予算要求予定とのことであった。もっとも、いずれ自走できる運営計画が不可欠であり、それを確立した上で今後の活用を検討すべきと考える。
(松井 道信)
「デジタル田園都市国家構想」を推進するため、地方からデジタルの実装を進めていくことが喫緊の課題である。このためにデジタルを活用した、意欲ある地域に対して国が交付金を支給。デジタル実装タイプはTYPE1・TYPE2・TYPE3に分かれ、デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上に向けて、取組を行う地方公共団体に対して、必要なハード・ソフトを支援している。2024年度末に1,000団体の取り組みを目指す。更に、「転職なき移住」を実現し、地方へ新たな人の流れを創出することで、デジタル田園都市国家構想に実現に貢献するという、地方創生テレワークタイプの取り組みに対しては、サテライトオフィス棟の整備・運営・利用促進に対して交付金援助を行い、101団体が採択されている。
関係資料
提供:内閣府地方創生推進室/内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務
3.重層的支援体制整備事業と地方創生について
厚生労働省地域共生社会推進室
会派意見まとめ
「重層的支援体制整備事業」は、地域共生社会に向けたこれまでの取り組みの中で顕在化してきた課題に対応すべく、新たに創設された事業です。そこで示されたのは、地域共生社会を実現していくために、分野を越えた複合的な課題解決に向けた支援体制の構築が急務であるということです。
この事業は手あげ方式の事業であり、取り組みを進めるためには自治体の積極性が求められます。人口減少・少子高齢化が進む本市においても、早期に議論を始めることが必要と考えます。地域共生社会は、地域の多様な主体が協働し、誰もが支え合う地域を創ることを目指すもので、福祉という枠にとらわれない連携が求められています。
また、市としては、地域共生社会の実現に向けて、地域住民の協力の必要性を訴えるだけではなく、地域住民が参画したいと思うような、地域の実情に合った仕組みを構築することが重要であると考えます。
各会員所感
(森下 恒夫)
「地域共生社会」を制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会と大変大きな視点で捉えて重層的支援体制整備事業が制度設計されている。すでに、我が市で取り組んでいる事業も多く含まれているように思うが、令和4年度予算として、昨年度の116億円から261億円と大きく上積みされている。地域共生社会を構築して行く上で何を充実させるべきかを考え取組む必要があると感じた。兵庫県下で姫路市、尼崎市、芦屋市、加東市と都市部で取組を始めているようだが、地方都市こそ取組が急がれる政策だと思う。
(嵯峨山 博)
第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づく地方創生のより一層の推進に向けた取組を支援を目的に 地域再生法に基づく法律補助の交付金とし、安定的な制度・運用を確保、地方版総合戦略に基づく、地方公共団体の自主的・主体的で先進的な事業をPDCAサイクルを組み込み、従来の「縦割り」事業を超えた取組の支援を考えている。
重層的支援体制整備事業とは、地域生活課題を抱える地域住民及びその世帯に対する支援体制並びに地域住民等による地域福祉の推進のために必要な環境を一体的かつ重層的に整備する事業である。地域住民が抱える課題が複雑化・複合化する中、従来の支援体制では課題がある。このため、属性を問わない包括的な支援体制の構築を、市町村が創意工夫をもって円滑に実施できる仕組みとすることが必要でり、市町村において既存の相談支援等の取組を活かしつつ、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な支援体制を構築するため、①相談支援②参加支援③地域づくりに向けた支援を一体的に実施する事業を創設する。 新たな事業は実施を希望する市町村の手あげに基づく任意事業である。相談者の中で、社会との関係性が希薄化しており、参加に向けた支援が必要な人には参加支援事業を利用し、本人のニーズと地域資源の間を調整する。このほか、地域づくり事業を通じて住民同士のケア・支え合う関係性を育むほか、他事業と相まって地域における社会的孤立の発生・深刻化の防止をめざす。
以上の各事業が相互に重なり合いながら、市町村全体の体制として本人に寄り添い、伴走する支援体制を構築していくとしている。
(藤原 正伸)
福祉制度は、これまで対象者の属性別に、現金給付・現物給付をおこなう制度として発展してきたが、その基盤であった共同体の機能の脆弱化、人口減少による担い手の不足により、対象者別の各制度ごとでの支援対応が困難になってきている。このような社会変化の実状を踏まえて、従来の制度・分野ごとの縦割りの関係や、「支え手」「受け手」という関係を超えて、誰もが役割と生きがいを持って、地域を共に創っていく地域共生社会実現のため、令和2年社会福祉法等改正によって創設されたのが、重層的支援体制整備事業ということである。
地域共生の実現には、福祉分野にとどまらず、産業、環境、労働、教育等様々な分野との連携が必要になることにおいて、地方創生の視点と基本は同じだと思われる。重層的支援体制整備事業のもとでは、地域づくりに向けた支援にも取り組むことが求められ、地域活動が活性化する効果が期待できる。これは地方創生における小さな拠点の取組と目的が同じであり、親和性が高い。
本市で推進する地域包括ケアにまちづくりの課題も取り込み、地域関係者や地域資源の連携体制をどのように作るかを、庁内の部署横断的に検討する必要がある。結局、どのようなまちにしたいかという地域ビジョンを明確にし、共有することが、ここでも重要になるのだろう。
(松井 道信)
地域共生社会はすべての人の生活の基盤としての地域に地域住民や地域の多様な主体が我が事として参画し、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会をいう。そのために地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する支援体制の構築を支援する。属性を問わない包括的な支援体制の構築を市町村が創意工夫をもって円滑に実施できる仕組みとすることが必 要であり、新たに重層的支援体制整備事業の創設を行う。相談支援・参加支援・地域づくりに向けた支援を一体的に行い、属性や世代を問わず、既存の取り組みで対応できないニーズに対しても対応すると同時に、住民同士の顔の見える育成支援を図る。国では包括的相談支援・地域づくり事業・多機関協働事業等を実施し、市町村における重層的支援整備体制整備事業の実施に向けた移行準備、都道府県による市町村への後方支援も行う。
関係資料
提供:厚生労働省地域共生社会推進室
Ⅱ.先進地の施策研究
1.「自主防災組織連絡協議会推進事業等について」
埼玉県三郷市危機管理防災課
会派意見まとめ
災害から命と生活を守るためには、公助の限界を補う「自主防災」が不可欠ですが、人口減少・少子高齢化が進展する今日、安否確認や避難誘導において高齢者や障がい者などの要支援者を支える活動や、避難所運営などを地域主体で進めることなど、自主防災の重要性はますます大きくなっています。このような必要に応えるためには、自主防災の組織的な取組とその強化が不可欠です。
このような観点から、市としては、自主防災の担い手の確保、自主防災の組織的活動を担保する地区防災計画の策定などについて、各地区の取組を支援するとともに、各自主防災組織の相互連携及び行政との連携強化のためのネットワーク構築に取組む必要があると考えます。
各会員所感
(森下 恒夫)
三郷市は埼玉県南東部に位置し、江戸川、中川に挟まれた低地帯で市全体の標高は1~3mで、平坦な地形から過去大きな水害はないとのことである。
防災で一番心配されるのは、首都直下型地震である。この地震に対する危機感から市民の中から防災意識が高まり熱心なリーダーがおられたこともあり、自主防災組織が次々とできてきたとのことである。そして、平成9年に72団体で連絡協議会が設立され、以降市の防災対策室が事務局を担い、協議会と防災対策室との関係が密になり、協議会に対し年間60万円の補助金が交付され、現在では128団体となり年間約160万円の予算で協議会が運営されている。協議会は訓練部会、視察・講演会部会、広報部会、ホームページ部会で構成されており、特に防災訓練の指導者の育成に力を入れられており養成講座を年3回開き現在では修了者が738名とのことで取り組みに感服した次第である。
一方我が市の取組は区単位で組織化はしているものの、内容はおざなりでとても機能するとは思えない.又、防災訓練も年一度で行事化していると言わざるを得ない。危機意識の違いであろうが、災害はいつどこで起きるか分からないことを考えると、意識高揚の為の啓蒙のあり方、訓練のあり方等根本的に考え直す必要がある。
(嵯峨山 博)
阪神大震災後に自主防災組織が発足したが、当初は何をすべきか。手探りの活動状態が続いていた。消防が訓練指導に追われ、自主防災組織間の情報交換、協力の必要性があることから、市で連絡協議会結成について企画を行い、6地区(ブロック)に分けて説明会を行い、情報交換としてブロック会議、広報紙発行と配布を行うことにより活動のヒントを共有、活動に対する理解向上を目的に勉強の場を設けるため、実施準備委員会を設置(平成8年8月)した。その後、連絡協議会を設立した。市の業務として防災対策室職員が協議会の事務局を担当している。
協議会の活動は、⑴ リーダー育成事業 ⑵ 広報事業 ⑶ 研修事業 ⑷ 交流事業である。リーダー育成事業については、地域での防災訓練を指導するリーダーの育成を目的に、平成16年から年に3回自主防災訓練指導者養成講座を行ない、3回の受講により修了証を授与している。現在は講座の講師を修了者が担っている。行政が主導ではなく、市民がどのようにするか。市民主導で実施している。また、備蓄については指定避難所で分散備蓄を行なっているとのことであった。
市民の防災に対する意識づけには有効な取り組みであると感じたと同時に本市で取り組むには時間がかなり要すると感じた。
(藤原 正伸)
三郷市には、各町会・自治会・マンション管理組合等を母体とする自主防災組織があり、それぞれが独立して活動していたところ、各自主防災組織間の情報交換や活動の協力を求める声が高まり、市が連絡協議会結成を企画、平成9年3月に三郷市自主防災組織連絡協議会が設立され、市防災部局が事務局の任にあたっている。
三郷市は、東西を大きな河川(江戸川、中川)に挟まれた低地帯で、首都直下地震も想定されている。本市は災害に比較的無縁で防災意識に欠けるところがある一方、三郷市は地理的条件から被災の経験が多く、防災の取組が盛んと推測していたが、実際はそうではなく、大きな災害に見舞われた経験は無いとのことであった。実状は、三郷市の前身の三郷村以前からの住民と、近年の宅地開発による新住民との交流促進のきっかけとして防災を取り入れたそうである。旧住民のもつ地域の災害情報を共有する方法として自主防災活動がスタートしたようで、人の流入により地域づくりの問題が表面化し、地域活動の充実という課題解決の一つの手段として防災が機能したことが興味深い。災害が少ない点では本市も同様だが、人的交流の活発化はまだ最近のこととすれば、自主防災の立ち後れはやむを得ないことか。それでも共生社会の時流を捉えてこの機会に推進することが重要だろう。なお、新たな転入者を町会活動に繋げることは現在でも困難な課題であり、町会等を母体とする自主防災組織の高齢化も自ずと課題になっているとのこと。防災意識をきっかけに自主防災活動に参加し、その延長で町会活動にも関心を向けてもらう考え方で進めているとのことであった。
自主防災組織連絡協議会の最も重要な事業はリーダー養成事業で、自主防災訓練指導者養成講座を定期的に開催し、地域で防災訓練を指導するリーダーの育成を行っている。講座修了者の多くが自主防災訓練指導者ネットワーク(自主防災組織連絡協議会内の組織)の会員となり、講座の講師も務めるそうで、修了者による新たな指導者の育成サイクルが確立していることが大変すばらしい。
地域防災力の強化には共助の意識の向上が必要だが、自主防災組織連絡協議会は地域における協力や連携の体制づくりに有効で、共助意識の向上に資する取組となっている。目立った被災経験の無いなかで、自主防災の仕組みを構築することは、動機付けの点からも困難がある。訓練指導者ネットワークや訓練指導者養成講座などの住民同士で完結するサイクルが、非常に重要な意味を持っており、評価されるポイントだと思われる。行政主導の本市と非常に対照的な取組であった。
(松井 道信)
三郷市の概要について。埼玉県南東部に位置し、東京都と千葉県に隣接している。東は江戸川、西は中川と大きな川に挟まれた低地帯で、市内全域の標高は1~3mしかなく、ほぼ市内はすべてが平地といえる。面積30.22㎢と小さい街であるが、都心から比較的近く、人口はベッドタウンとして継続的に微増傾向にあり、現在では14万人強となっている。また市内は昔ながらの田園地域と新興住宅地域が混在しており、三郷の地名もかつて三つの村が合併してできたことに由来する。
当初、三郷市は全域の標高が低く大きな川に挟まれた地形から、かつて水害に見舞われた経緯があり、そこから自主防災活動が盛んになったものと勝手に 決め込んでいた。が、実際はそうではなく、阪神淡路大震災を契機に、旧住民と新住民との交流を図るための手法の一つとして起こったと聞き、たいそう驚くと同時に、その後の活動に対し大いに感心をした。というのも、僅か1年足らずの平成8年までに、三郷市において市内の半数を超える72団体の自主防災組織が町会・自治会を母体として設立されている(現在128団体)。かつて大きな災害を被ったことがないというにも関わらず非常に熱心な取り組みである。現在では、風水害だけではなく地震災害や自然災害・事故市外に対しても被害想定を行っている。またこうした活動をするにあたって、市では連合の防災連絡協議会に対して年間60万円の予算をつけているが、各防災組織は、会費として5,000円を支払っており、それぞれの構成団体が会費を支払ってまで活動していることに対しても感銘を受けた。また組織のスキル維持のために、三郷市独自に防災訓練指導者という資格制度を設けており、この資格取得が市の防災の一つの要件となっている。現在ではこの試験合格者が後輩の育成や講座の講師を務めており、持続可能な三郷市の防災体制維持に貢献している。また広報事業としてホームページの管理や会報の発行を行なっている。更に、自主防災組織が主体となって防災講演会や視察等の研修事業も行っている。こうしたことから平成26年には内閣総理大臣賞を受賞するなど輝かしい活動を行っていた。こうした手法や実践は、朝来市においても見習うべき点が多く、小さな町が手本となる防災への取り組みであった。
関係資料
提供:埼玉県三郷市 危機管理防災課
2.「リノベーション まちづくりについて」
埼玉県草加市産業振興課
会派意見まとめ
「リノベーションまちづくり」は、民間のまちづくり会社が主導し、遊休不動産をリノベーションの手法を用いて再生し、新しい使い方、新しい空間体験を生み出す個別の取り組みを一定エリアに集中的に面的に展開し、まちの産業を創出し、エリア価値の向上や地域雇用の創出を促進するなど、まちそのものをリノベーションすることで、まちが抱える地域課題を解決しようとするものです。
本市は、空き家、空き店舗、空きビル、空き地等の多くの遊休不動産を抱えており、また住宅地、農村部、中心市街地、昔ながらの雰囲気が残る地域等、様々なエリアが存在しています。それらを新たなアイデアで再生し、エリア価値向上を目指す取組を取り入れることは、まちの活性化や地域経営の課題に対して大変有効と考えます。
補助金に頼らない民間主導の取組ですが、本市の自治体としてのサポートは不可欠です。特にエリア価値向上を図るための⽅向性をまちづくり計画に則して示し、これに沿った再生を促す必要があります。また、事業の過程における人的資源の活用や合意形成を通じて、エリア内コミュニティの醸成を支援することも重要です。
各会員所感
(森下 恒夫)
平成27年に策定された第四次草加市総合振興計画基本構想で目指す都市像として「快適都市~地域の豊かさの創出~」を掲げ基本計画では都市像を実現するための基本的要素の一つとして「活気の創出~にぎわいのあるまちをつくる」としている。さらに、「草加市版総合戦略」を策定し人口減少の克服と地域の活性化、まち・ひと・しごとの創生と好循環の確率を目指している。 そして、産業振興分野の個別計画である草加市産業新成長戦略がアクションプランとして位置付けられその主要施策としてリノベーションまちづくりが公民連携(そうかリノベーションまちづくり協議会)で進められている。
ここまで説明してきたことで明らかなように、我が市の、「あなたが好きなまち」とか「人と人がつながり幸せが循環するまち」といった極めて情緒的な将来像をもつ総合計画とは全く根本が違います。さらに計画実現までの道筋が極めて明確で緻密です。これは、市の人口規模(草加市25万人)から来る職員レベルの違いもあるとは思うが、要は危機感の違いだと思う。草加市は東京近郊にあり、つくばエクスプレスの開通により沿線各市との競争が厳しいことが想像できる。
選ばれるまちにする為に何をどうするのかと言った視点でまちづくりを全くしてこなかったことに責任を感じると共に、総合計画そのものの間違いをどう正していくべきか今後の大きな課題である。
(嵯峨山 博)
リノベーションまちづくりとは、まちのことをよく知り、まちの方とのつながりや、自分のやりたいことを活かしながら、地域経営課題の解決を目指し、今ある地域資源を活用し、志ある市民によりまちの新たな魅力となるコンテンツの創出を通して[ほしい暮らしは自分でつくる]を実践する。市民自らの活動による新たなコミュニティの創出、そして、まちへの愛着と共感の輪の広がりからさまざまな取り組みが絡み合うことで、まち全体の魅力が高まっていくと考えている。補助金ありきでのまちづくりではなく、このリノベーションまちづくりは補助金をできる限り頼らないとしている。本市も、見習う点ではないかと考える。
(藤原 正伸)
リノベーションまちづくりは、空き家・空き店舗を活用して、地域の変化を作り出すようなビジネスを誘致し、そのビジネスを介して地域エリアを活性化するプロジェクトとされる。通常、空き家・空き店舗に悩む自治体が行う事業である。しかし、草加市は空き店舗率2.5%と、極めて空き店舗の少ない自治体である。なぜリノベーションまちづくりを始めたのか。
東京のベッドタウンとして発展を続ける草加市だが、人口増加の裏で草加市に接点を持たない住民が増えた。市内就労は生産年齢人口の3割程で、東京への通勤者が多い。また、住居を作るために店舗をつぶし、アパート・マンションが建てられた。お金を使う場所が無くなり、まちに必要な稼ぐ力、市内でお金を吸収する仕組みが失われた。人が増えれば何とかなるは地方創生の幻想と言い切られた。このようなまちの環境を変え、地域内経済の好循環を生むきっかけを作るためにリノベーションまちづくりに取組むことになったとのことである。
草加市は公民連携まちづくりのなかで、市民がまちとの関わりを主体的に考えながら、地域の中で顔の見える関係性を作る起点となる場所を、リノベーションまちづくりにより創出している。重要なのは、草加リノベーションまちづくり構想を策定し、行動計画やエリアビジョンにより、地域課題の解決に繋がるビジネスをわかりやすく示し、関係者の取組の気運を醸成していることである。リノベーションまちづくりで行われる事業は基本的に民間事業である。しかしまちの未来のために、まちづくりとしてビジネスを手がけてもらうのだから、行政はその取組をしっかり応援する必要がある。行政計画は、頑張る人を応援する仕組みであるとの説明は、大いに説得的であった。
また、リノベーションまちづくりは補助金を使わないとのことである。ビジネスに取組む人を公式に応援するのだが、補助金を出すのは稼ごうとしている人に稼がなくてよいというようなもの。家賃補助も市場原理を歪める。利子補給や出資によって資金調達の支援を検討する方がよいとの助言を受けた。本市の補助金の使い方は考え直した方が良いようである。創業支援は補助金ではなく伴奏支援に軸足を置かなければならない。
リノベーションまちづくりという空き家・空き店舗を活用して地域の変化を作り出す事業は、その地域に関わる色々な人々が、それぞれそのまちでこれからどうするかを考えるきっかけとなる事業であると理解した。
(松井 道信)
草加市も三郷市と同様、都心からの交通の便の良さからベッドタウンとして継続して人口は微増とのことであった。草加市は三郷市よりも更に狭く、27.46㎢しかないが、人口は25万人と人口密度は更に高い。そのため市内に遊休地はほとんどなく、新たにお店を作ったり住まいを作る余裕は少なく、空き店舗が出来てもすぐに埋まってしまう状況であり、空き店舗は住居となるケースが多いとのことであった。市内の観光地や名所については、奥の細道の風景地である「草加松原」がある程度で、土産品は草加せんべいが全国区で有名ではあるが、他にはこれといって何もないところとの弁であった。その一方、我々の朝来市は観光資源が豊富で羨ましいともいわれ、実際に竹田城址を見物に来られた担当者もおられたが、無いものねだりは良くない。あるものを活かす政策が必要とも話されていた。この言葉を溜飲が下がる思いで聞かせて頂いた。
旧道沿道リノベーションについても、都市計画の道路拡幅によってできた中途半端な土地をどう利用するかが元になっている。またリノベーションまちづくりにおいても、市内に圧倒的に空き家が不足していることに、成功の要因はあると思われるが、補助金に頼らず自らの資金で遊休不動産をリノベーションし、再生することで新しいまちづくりに取り組んでいる手法は、見習うべき点も多いと感じた。ただ草加市では、こうした動きに対して、個々に補助金は出さないけれども、人的なアドバイスを含めリノベーションスクールの開催などの側面支援は手厚く積極的に行っており、市のスタッフも配置されている。こうした取り組みから、わが市の支援体制が、補助金ありきではなく当局による様々な手厚いサポート体制にあり、そうした動きが最終的に成功につながる要因を構成する源泉になっているように感じた。
関係資料
提供:埼玉県草加市 産業振興課
3.「観光振興について」
埼玉県川越市観光課
会派意見まとめ
交流人口の増加や経済活性化につながる観光施策は、民間活力も活用しながら戦略的に進める必要があります。観光施策を戦略的に進めるにあたっては、マーケティング手法を取り入れた観光地域づくりの体制について検討する必要があります。
すなわち、本市の魅力・課題等を分析し、明確なコンセプトのもと観光戦略を策定し、KPIの設定、PDCA サイクルの確立を図りながら継続した取り組みを進めることが重要で、そのためには本市の幅広い関係者が参画したネットワークとしての「観光地経営体」が必要です。本市の観光に関わるいずれかの組織が観光地経営の推進役を担うべく機能を強化するか、あるいは推進役を新たにつくり、関係者をまとめていくことが求められます。
今後、観光施策をより効果的に推進していくために、本市の観光に関する考え方を明確に示し、観光地経営体の確立に向けて取組むべきと考えます。
各会員所感
(森下 恒夫)
川越はJR川越線、東武東上線、西武新宿線の三つの鉄道と関越自動車道、国道1号6、国道254号の三つの主要道路が通る交通の要衝である。又、江戸時代には、江戸の北の守りとして有力大名を配置したことから、江戸との関係が密接で今でも小江戸と呼ばれている程に江戸文化を残すまちである。
380年続く川越祭りは国指定重要無形民俗文化財に指定されており29台の山車を市内を引き回すという一大観光イベントとなっている。平成28年にはユネスコ無形文化遺産に登録されている。
市内を観光(歴史的)ゾーンと商業(近代的)ゾーンに分けて振興が図られ ているが、それらを担っているのは川越市が中心となり、(公社)小江戸川越観光協会、川越商工会議所、(株)まちづくり川越、(一社)DMO川越といった5団体である。
川越祭りの運も、協賛会、山車保有町内協議会、囃子連合会等行政が事務局として支えていることからも祭りを観光として大きく位置付けていることが分かる。人口減少、高齢化で祭りの運営が難しくなっている我が市の現状を考えた時、観光における祭りの位置付け、運営のあり方を深く考え直す時期にきていると感じた意義深い視察であった。
(嵯峨山 博)
これまでも、多くの観光地を視察させていただき「本市の観光をどのようにすべきか」「多くの課題をどのように解決すべきか」そういった視点で、今回も川越市の観光に対する取組をご教授いただいた。
産業建設常任委員会では朝来市版DMOがうまく行かない。と言われ続けているが、川越市では、観光に対しては、観光協会、DMO川越、まちづくり川越、川越商工会議所が連携している。DMO川越は法人化されデータ収集や分析などされている。
朝来市は検討委員会を設け、DMO法人としての登録ありきではなく、DMO的な組織体制を整備する。まずは観光協会の統合を進め、役割を担える観光推進組織の育成を考えている。また。観光関連団体や事業者のほか、農林業や商工業、市民に至るまで、多様な関係者と連携していくことで、観光を通じた地域創生を進めていくとある。
川越市のように、課題も多くあるとの説明を受けたが、住民主体となり観光産業が成り立っている。本市も多様な関係者からの意見を聞き、連携を行なう体制となっているが、今後どのようになるのか注視する必要がある。
(藤原 正伸)
JR、東武東上線、西武新宿線の3路線が乗り入れ、都心へのアクセスが良い川越市は、都内通勤者が非常に多いまちである。
川越市の観光まちづくりは、それまで賑わいに欠けていた、現在の蔵造りの町並みの活性化に始まる。昭和後期、蔵造りの維持の負担などから商店街が衰退したが、昭和50年代から、建築専門家により蔵造りの文化的価値が指摘され、保存と活用の必要が民間のまちづくり団体から提唱される。平成にかけて蔵造りを観光資源として見せる発想に転換し、行政もハザードの改修等環境整備を補助することを始めた。NHK大河ドラマ以降メディアで取り上げられる機会が増え、賑わいが創出され、現在の観光地としての定着に至っている。
ポイントは、住民側の保存運動に応じ、都市計画道路の計画変更や電線地中化、歩道の石畳化などの周辺環境整備を行政が行うという流れで、住民側の動きが起点になったことである。現在でも、町並みの保存に関する審査を始め、まちづくりの中心はまちづくり団体や商店会などの民間が担っている。そして商工会議所等がこれに連携し、行政各課がそれぞれ関連業務でバックアップする仕組みである。地域づくりを牽引する人材は官民ともに豊富で、代替わりもスムースに運んでおり、地域に目を向ける意識が強い。
川越市は現在、平成28年に策定された観光振興計画の見直し過程にある。都心からのアクセスがよいばかりに、来やすく帰りやすい、95%が日帰りで滞在時間が伸び悩んでいる。また、観光エリアの中心部を幹線道路が貫き、交通規制による交通安全確保が困難なことや、観光スタイルとして食べ歩きが普及したことで、ごみのポイ捨てが深刻するなどの課題が浮上している。これらの課題に対して、官民挙げての対応が必要となっており、事業者主導の対策を基本に、行政が周辺環境整備の後方支援にあたる従来の姿勢で、今後協議していく予定とのことであった。
観光振興は、その地域の生活者の生活環境の維持向上と両立してこそ持続可能である。そのためには、時間をかけても住民や事業者の意見が反映されたまちづくりを行うことが重要だとあらためて感じた。
(松井 道信)
川越市は面積109.13㎢、人口は約35万人の中核市である。従来の中心市街地は北部地域であり、蔵造りの街並み、時の鐘など川越を代表する歴史的な観光資源が集中し、観光ゾーンとして多くの観光客で賑わっていた。しかし近年になって南部地域が商業ゾーンとして金融・サービス・商業が集積し、市内で最も人の動きのあるエリアとなった。川越市は観光に依存している部分も強く、また市民の祭り(川越まつり)に対する気持ちも、ここでは年齢を問わずに殊の外強く、現在もその祭りが市の最大のイベントとなっている。
北部地域活性化を図るために、昭和の後期から衰退化していた蔵造り商家の活用や南部商店街の活用を図った。そうすることによって平成に入ってから街に賑わいが戻り始め、平成の終わりには観光地として定着した。また蔵造の商家の街並みは近年都市計画によって道路幅員の拡幅を計画していたが観光面からこの計画を取り消した。時の鐘周辺においては電柱を撤去し地中化工事を実施すうことによって街から電柱の姿を消した。こうした働きによって観光客は徐々に増加傾向を示し、令和元年度には年間観光入込客数は775万人まで増加している。29台の山車が市内をまわる川越祭りは川越が1年で最も賑わう時であり、市の産業観光部観光課には観光推進担当が4名在籍しているが、その職務は川越まつりの運営に特化しており、いかに市が川越祭りに力を入れているかを表すものである。この仕事に関わりたくて大学で観光を専門に勉強してきた大学生が、毎年市職員の公募に応募してきている現状からも、この祭りが地域に強く根付いていることがわかる。また川越祭まつり会館の運営や維持についても、市が直接かかわっていることも驚きであった。
しかし良いこと尽くめばかりではなく、この新型コロナウイルスによって川越まつりが2年連続で中止になっている(今年は開催予定)ことや、観光客の滞在時間が短く(ほとんどが日帰)、お金を落とさないことが朝来市と同様の問題となっている。ほとんど観光は徒歩となることから、ポイ捨てのごみ問題も頭を悩ませる課題と言える。また自家用車で来訪が多いものの、行政側は特別な駐車場を用意はしていない。休日に市役所の駐車場を開放しているのと、市内に多く点在するコインパーキングがこの役を担っている。
関係資料
提供:埼玉県川越市観光課